新幹線の窓際の席で、画面を斜めに傾ける癖があった。
原稿を書くとき、隣の人の視界に文字が入らないように、角度を探る。膝の上でノートパソコンを少し回し、光の反射も気にしながら、ちょうどいい角度を探す。それでも、ふとした瞬間に隣の人の目が画面の方を向いているのに気づくと、指が止まる。書きかけの、まだ言葉になっていない文章を読まれた気がして、落ち着かなくなる。
カフェでも同じだった。背もたれのある席を選び、壁を背にする。後ろに誰も座れない位置を、無意識に探していた。仕事だから、というより、書きかけのものを見られたくないという、もっと個人的な理由だった。
覗き見防止フィルターというものを知ったのは、そんな新幹線の中でのことだった。隣の人が、画面に薄い膜のようなものを付けていて、真横からだと画面が真っ暗に見える。真正面からは普通に見えているらしい。それで、自分のMacBook Airにも試してみることにした。
届いたものは、思っていたより厚みがなかった。枠にはめ込むだけで、粘着剤は使わない。閉じたときに干渉しないか心配していたが、蓋はいつも通り閉まった。角度を確認すると、確かに横からは何も見えない。正面からは、色味も明るさも変わらない。
使い始めて数日、気づいたことがあった。新幹線でも、カフェでも、画面を傾ける動作をしなくなっていた。背もたれのある席を探す必要も、なくなった。膝の上でノートパソコンを、まっすぐに置けるようになった。
吸着力が弱くなったら水で洗えばいい、と説明書にあった。消耗品ではなく、育てていくものだと知って、少し驚いた。
背中を、丸めなくなった。それだけのことだが、書く姿勢が変わった気がしている。

