夜の九時を過ぎると、家の中の電波が混み合う。
誰かが動画を見て、誰かがゲームをして、誰かがただスマホを眺めている。それぞれは大したことをしていないはずなのに、画面の読み込みがやけに遅くなる時間がある。気のせいだと思っていたが、どうも気のせいではなかったらしい。
ゲームをしているときに、それは特にはっきり現れた。コントローラーを倒した数瞬後に、画面の中の動きが追いついてくる。負けた理由が、自分の判断ではなく、その数瞬のせいだったような気がしてくる。本当のところは分からない。ただ、そう思ってしまう夜が増えた。
古いルーターを、もう何年も使っていた。買い替えるという発想自体が、しばらくなかった。電波というのは、目に見えない分、劣化している実感も持ちづらい。壊れていないのだから、まだ使える。そう思い込んでいた節がある。
届いた箱は、これまでのものより少し大きかった。設定の途中、一度だけ接続が途切れて、画面が固まった。慌てて電源を入れ直すと、何ごともなかったように繋がった。そういうことは、案外よくあるものだ。
BuffaloのWi-Fi 6対応ルーターだった。型番は覚えていないが、箱には「エコパッケージ」と書かれていた。中身よりも先に、そんな細部に気を取られるのは、いつものことだ。
つないでみると、スマートフォンも、ゲーム機も、テレビも、同じ部屋の中で同時に動いていても、互いを邪魔しなくなった。九時という時間が、もう特別な時間ではなくなった。
コントローラーを倒した分だけ、画面が動く。負けたとしても、それは自分の判断のせいだ。当たり前のことが、当たり前に戻っただけだった。
それだけのことだ。だが、それだけのことが、案外、大きい。

