料理の途中で、何かを調べたくなる。
調味料の分量、火加減の目安、あの野菜の下処理。スマートフォンを台の上に置いていても、手が汚れているときや濡れているときは、取り上げて画面に触るのが億劫になる。袖の端でなんとかしようとしても、認証が通らないことがある。タオルで拭いてから確認するのも、一度や二度ではなかった。
どこかで諦めていた。料理のあいだに知りたいことは、あらかじめ覚えておくか、後で確認するか、あるいは勘でやるしかないと、長い間そう思っていた。
テレビの脇に、画面つきのスピーカーを置いてみた。8インチほどの大きさで、斜め上向きに置いておくと、時刻と天気がずっと映っている。特に何かをしていなくても、ただそこにある。
初めて「アレクサ、タイマーを三分セットして」と言ったとき、すぐに応答があった。手を拭かなかった。スマートフォンを探さなかった。声を出しただけで、画面に三分のカウントダウンが始まった。
しばらく経って気づいたのは、声で調べるという動作が、案外難しかったということだ。何かを知りたいとき、手を伸ばして端末を取り上げることは、ずっとやってきた習慣だった。声に出してみるという選択を取るまでに、数日かかった。
Amazonがこのデバイスを設計したのは、音声と画面を組み合わせることで、手を使わずに答えを受け取れるようにするためだと、後で読んで知った。聞いて、目で確認する。それが基本の考え方らしい。
今は、料理のあいだにスマートフォンを探すことがない。
それだけのことだ。だが、それだけのことが、案外、大きい。
